先輩農家の体験記

Interview


株式会社ベジリンクあきた男鹿

鈴木雄太

■所在地:秋田県 男鹿市
■栽培品目/栽培面積:水稲 / 40h a 、 畑作 / 60ha
■家族構成:妻
■従業員:12名
■就農時の年齢:29歳


雇用就農で技術・経営のノウハウを学び、農業経営者を目指す

農業を始めるときに、独立就農以外にも農業法人へ就職して「雇用就農」という形で農業に携わる方法もあります。男鹿市の農業法人、株式会社ベジリンクあきた男鹿に入社した鈴木雄太さんも雇用就農から農家への道を目指している1人です。鈴木さんは、東京の大学を卒業後、保険会社や製薬会社の営業職として勤務していました。岩手県に赴任しているときに、義母が他界。妻の実家は秋田市で稲作農家を営んでおり、義母の死後、農家を続けていくのが困難な状況になったと言います。義父から話を聞いた鈴木さんは、「代々受け継いできた農家を潰してしまってはもったいない」と、自分が後を継ぐ決心をしました。

就農への道を模索し、情報収集をするなかで、秋田県農業公社のホームページにたどり着き、県内の農業法人でのインターンシップ参加者募集の案内を目にしました。インターンシップは、農業法人での就農体験を通して、働く会社の雰囲気や地域の暮らしを知り、農業への適性を見極めるきっかけとなる研修制度です。2022年現在、56カ所の農業/畜産法人での受け入れが可能になっています。

「農業公社では、県内各地の多くの農業法人へ行かせていただきました。インターンシップに関する要望に真摯に対応していただき、感謝しています。」

若い世代の担い手を育成する農業法人で勉強したい

インターンシップで訪れたベジリンクあきた男鹿で、3日間の研修を行った鈴木さん。研修後もたびたび手伝いに訪れて、その後、社員として入社しました。

ベジリンクあきた男鹿の代表取締役社長三浦利通さんは、周辺農地の耕作放棄地や高齢農家の廃業などが多くなっている地域の現状を踏まえ、農業の担い手育成の重要性を感じています。近年、農業は機械化やIT化が進み、若い世代の力を生かせる場面も少なくありません。新規就農を目指す人を地域の後継者として支援していきたいと考え、農業法人を設立しました。働く場所を提供し、働く意欲のある人は積極的に雇用して、地域への定着率を伸ばしていきたいと考えています。

「ベジリンクあきた男鹿では、7〜8年前からインターンシップを受け入れています。作目が多いので、いろいろな栽培技術や販売などのノウハウも勉強できる条件がそろっています。収穫作業や選果・選別、慣れてきたら販売先や取引先との折衝にも参加して、経験を積んでもらいます。」基本的に、インターンシップの期間は2週間程度。その後、鈴木さんのように長期で働く人も多いと言います。鈴木さんが、農業法人での雇用就農を選んだのは、近い将来農業法人を立ち上げて独立を考えているため、技術面だけでなく経営面でも知識をつけておきたいという考えからでした。近年、荒廃農地面積を減らすために、農地中間管理機構による農地の集積・集約化が進められており、鈴木さんが引き継ぐ予定の水田の面積も広がる予定です。大型機械の導入が必要になる一方で、機械化によって必要な人員は減り、農業経営の方向も大きく変わっていくと予測。既存のレールに乗っていては経営の変革はできない、と感じています。

社員自らがやる気になるオープンでフラットな社風の会社

鈴木さんのベジリンクあきた男鹿での入社1年目は、会社の主要作物のメロン、そしてキャベツの栽培を中心に行われました。体力的にあまり自信がなかったという鈴木さんですが、整枝作業や収穫などを行いながら、少しずつ身体も慣れて行きました。2年目には、トラクターやコンバインなどの農業機械を使った作業。日本に数台しかないような大型機械での作業にも積極的に参加させてもらい、作物の管理を経験。3年目にはオールマイティーに仕事ができるようになりました。

三浦社長は、「仕事に責任が持てるようになれば、社員に少しずつ全体のプロセスも知ってもらい、経営に参加してもらうことで、会社の売上アップや成果が出てくる」と考えています。将来、自身で経営をしていくときにも、その体験は役立つはずだと話します。

三浦社長との関係や社内の風通しも良好で、田植え後や収穫後などの節目でイベントなども積極的に行い、社員との交流も活発だという鈴木さん。フラットでオープンな雰囲気に、社員自らがやる気になり、充実した日々を過ごしている様子が伝わってきます。

生きがいを感じられる秋田でのスローライフを手に入れた

以前は製薬会社の営業として働いていた鈴木さん。農業法人に就職し、ゆくゆくは農家として独立することに不安はなかったのでしょうか。

「MR(Medical Representative/医薬情報担当者)として働いていたころは、非常に多忙な毎日でした。そのときに比べて収入は1/3になりましたが、自分自身はすごく落ち着いた生活ができていると思います。もちろん農業にも、踏ん張らなければいけない仕事や時間的にハードなこともありますが、体調が良くなり、生きやすさを感じています。」

東京に生まれ、「ビル風と排気ガスで育った」と笑う鈴木さんは、見るもの一つひとつが新鮮に感じ、自然に囲まれる秋田でのスローライフを気に入っています。

「生活の質を落とすことに最初は抵抗があったとしても、東京に比べて物価が安いと感じるので、生活コストで考えるとなんとかなると思います。ただ、冬の暖房費はすごいですよ(笑)。」

三浦社長は、「農業に限らず、職業選択には一定の所得を得られることが重要視される」と捉えています。会社の業績がよければ、社員にしっかりと還元するのはもちろん、なるべく若い人には、「生きがい」「やりがい」が感じられるような職場環境を提供したいと考えているそうです。

農業への道は雇用就農も選択肢のひとつ

農業を仕事にしたいと考えたとき、安定した収入を確保しながら、落ち着いて仕事に取り組む「雇用就農」も選択肢のひとつです。資金を用意したり、借り入れを行ったりする必要がないので、自己負担が少ないのはメリットです。また、鈴木さんのように、将来的に独立就農をめざす人は、自分自身の経験や知識の幅が広がるような農業法人で研修するのも有意義です。その場合、独立したい人を積極的に応援する農業法人とのマッチングが重要になります。農業公社のインターンシップを活用して、ベジリンクあきた男鹿と出会い、さまざまな勉強を続けてきた鈴木さん。近い将来、妻の実家の稲作農家を引き継ぎ、仲間たちと会社を立ち上げて経営に参画する予定です。「立ち上げ当初は正社員3〜4名、それに加えて1〜2名を新規で雇用したいと思っています。ほ場の規模は60〜70haですが、人員的には小規模なので、畑作を管理していくのは難しいと思っています。機械管理が可能で、土壌的にも水稲や大豆、ハト麦などが適している農地なので、穀物類で勝負していきたいと考えています。」営業職から農業法人への転職を経て農業経営者をめざす、鈴木さんの今後の活躍が期待されます。