先輩農家の体験記

Interview


一休農園

島田雄一郎

■所在地:秋田県 秋田市
■栽培品目/栽培面積:りんご / 2.5 h a
■売上金額年間約 400 万円
■販路:スーパー、道の駅、 JA 直売所、イベント販売
■家族構成:妻 、 子
■就農時の年齢:45歳
■利用した補助事業:秋田県農業公社 中期研修/地域で学べ!農業技術研修/果樹未収益期間支援事業/ミドル就農者経営確立支援事業/農業次世代人材投資資金・経営開始型( 現 新規就農者 育成 総合対策(経営開始資金 ))


東京〜宮城〜秋田。漁師を経験し「Aターン」でりんご農家に

東京で生まれ育ち、会社員として20年間フードサービスのマネジメントをしていた島田雄一郎さん。学生のころからアウトドア好きで、「自然を相手にした仕事に就きたい」という想いが募り、会社員時代には農業や漁業の新規就業イベントに足を運んでいました。40歳のとき、イベントで出会った宮城の漁師に興味を持ち、水産会社へ転職して漁師生活をスタートさせましたが、3年後に島田さんの父が急逝。それが転機となり、「今後の人生をどこで過ごしたいか」を改めて考えた結果、母と妻の故郷である秋田への移住を計画することになりました。秋田でも自然相手の仕事がしたいと考え、秋田県農業公社を訪ねて就農に向けての情報収集を開始。農業公社では、就農希望者向けに農家見学会を開催し、農業体験ツアーなども実施していました。農家見学会に参加した島田さんは、果樹農家が同じ木をずっと育てているうちに抱く、木への強い愛情を感じ、果樹栽培をしてみたいと考えるようになったと言います。

果樹農家をめざし、農業公社や行政の農業研修を活用

島田さんは秋田へ移住後、まずは農業公社による3カ月間の中期研修に参加しました。野菜農家での研修中は滞在費が支給され、栽培技術などを学べました。研修を受けながら、自主的に秋田市河辺地区の果樹農家へも手伝いに通い、地域の人たちとの交流も積極的に行っていたと言います。野菜農家での研修終了のタイミングで、果樹農家での研修も受けられることになった島田さんは、再び農業公社の中期研修を3カ月利用。終了後は「地域で学べ!農業技術研修」で、県と市から研修奨励金として月に7万5千円を受給しながら、1年間引き続き果樹農家で研修を受けました。研修期間中には、夫婦2人で畑を管理しながら収益を確保するために最適な面積を考えるなど、営農計画を作成。果樹は、苗木を植えてから収穫できるまでに数年かかります。未収益期間に栽培管理経費が受け取れる果樹未収益期間支援事業の申込をしたり、農地を借り入れる手続きをしたりするなど、何度も秋田市園芸振興センターに相談に行き、サポートを受けたそうです。

販路開拓によって育まれた一休農園らしいりんご

2019年、果樹農家での研修を終えた島田さんは、研修先の果樹農家の廃園地(70a)と、高齢のため廃業することになった農家の成木園(30a)を借り受け、一休農園をスタートさせました。抜根、土地改良、苗木の植栽など大変なことも多かったと、当時を振り返ります。さらに、2021年には河辺地区の90歳の農家から果樹園(1.5ha)の管理を委託され、経営面積も広がりました。独立にあたり、初年度は県の「ミドル就農者経営確立支援事業」で年間120万円、次年度からは国の事業「農業次世代人材投資資金・経営開始型(現新規就農者育成総合対策(経営開始資金))」で、年間150万円の支援が受けられました。

島田さんは、現在、3カ所の園地を借り受け、りんごを栽培しています。30a、1.5haの2カ所は実がなれば収穫できる状態で借りた成木園でした。無事に収穫期を迎えたものの「自分が作ったりんごがお客様に受け入れられるか不安だった」と、当時を振り返ります。

卸売ではなく直販にこだわってイベントでの試食販売を積極的に行い、お客様の声を聞くことを大切しながら奮闘するうち、「一休農園らしいりんご」ができていきました。なるべく葉を取らず、りんごに養分を吸わせる工夫をしたり、収穫から出荷まで48時間以内を目標にしたり、食感にこだわっています。会社員時代の経験を生かし、その後も販路を広げた島田さん。現在は秋田県内の大手スーパーや道の駅などでも販売し、ほぼ完売状態です。今では、「一休農園のりんご目当てで来た」と指名買いしてくれるファンができるほど人気のりんごになりました。

行政のサポートで、未経験からでも農業で独立できた

就農に向けて動き始めてから、行政にさまざまなサポート体制があることを知ったという島田さん。農業未経験で秋田へ移住し、新しい事業を始めていく中で、特に助成金など金銭面でのサポートは大きかったそうです。また、現在所属している河辺果樹振興会では、ほかの農家を見て回る園地巡回などの講習会をはじめ、地域全体で助け合う体制ができていることも、島田さんの支えになっています。現在、島田さんが管理している園地のうち1カ所は苗木園です。この苗木園は1年間土壌改良を施し、3年前に自分たちで苗を植えた園地で、2023年からはいよいよ収穫が可能になります。今後の目標を聞くと、「木にも個性があり、元気な子もいれば、繊細な子もいます。それぞれの体調に合ったお世話ができるように、もっとりんごの声がわかるようになりたいです。加工品を作るなど6次産業化の実現も視野に入れ、売上目標は600~800万円。必要以上にお金にこだわらず、家族と一緒に心豊かな生活を送りたいです」と話してくれました。

東京で仕事をしていたころと比べ、農業を始めてからは「毎日が楽しい」という島田さん。ストレスだった通勤は、自然の中をドライブする時間に変わりました。農業を始めることについて、当初は反対していたという家族も、移住後にはのびのびとした環境で子育てでき、秋田での暮らしを楽しんでいます。秋田県は、「ALL(出身を問わず、全ての人が)」と「AKITA(秋田へ)」という意味の「A」を掛け合わせた「Aターン」を推奨しています。「Aターン」を実現し、「ストレスゼロです!」と笑う島田さんの晴れやかな顔が印象的でした。