先輩農家の体験記

Interview


竹原修一郎

■所在地:秋田県 大仙市
■栽培品目/栽培面積:肉用牛繁殖 (黒毛和種) / メス親牛 60 頭、牧草地 20ha
■売上金額年間約 3,000 万円
■販路:あきた 総合家畜市場へ 100 %出荷
■家族構成:祖父母、父母、妻
■従業員:6名
■就農時の年齢:22歳
■利用した補助事業:未来農業のフロンティア育成研修/青年就農給付金 (現 新規就農者 育成 総合対策( 就農準備資金 ))/農業次世代人材投資資金 ・経営開始型 (現 新規就農者 育成 総合対策(経営開始資金))


年間を通して安定した収入を確保。肉用牛繁殖の次世代農家

未来農業のフロンティア育成研修に2年間参加した後、新規就農

畜産業を営む両親のもとに長男として生まれた竹原修一郎さん。牧場では、黒毛和種メス親60頭を飼育し、生まれた子牛を生後10カ月になるまで育てたあと、市場へ出荷する「肉用牛繁殖経営」を行っています。以前から、家業を継ぐ決心していた竹原さんは、地元の農業高校卒業後、東京農業大学短期大学部へ進学。2年間の大学生活を終え、地元に戻って実家での仕事をスタートするつもりでしたが、秋田県仙北地域振興局の担当者から「未来農業のフロンティア育成研修」を紹介されました。「未来農業のフロンティア育成研修」とは、新規就農をめざす人や、新たな事業部門を開始したい農業者を対象とした研修です。県の農業試験場、果樹試験場、畜産試験場、かづの果樹センターのいずれかに2年間所属して、営農に必要な技術や知識を身につけられます。竹原さんは、国の補助事業「青年就農給付金(現新規就農者育成総合対策(就農準備資金))」を受給しながら畜産試験場で2年間研修を受け、今後5年間で自身がどのような農業経営をしていくのか、具体的な就農計画を作成。就農計画に基づいて市町村から認定新規就農者に認定されると、各種補助金などの支援策を活用できました。就農後5年間は、農業経営の確立を支援するための国の補助事業「農業次世代人材投資資金・経営開始型(現新規就農者育成総合対策(経営開始資金))」の交付を受け、年間150万円を受給しました。

県や市の担当者からの心強いサポートが支えに

父から経営継承され、牧場の代表者となった竹原さんは、収益を出せるのか、ちゃんと経営していけるのか不安を感じていたと言います。地域振興局やJAの担当者に相談すると、農業経営をはじめ牛の飼育についてもきめ細かくアドバイスをもらえ、大きな安心材料になりました。また、就農前の「未来農業のフロンティア育成研修」では、農業簿記などについても勉強していたため、帳簿の付け方など経理の基本的な知識が身につき、とても役立っているそうです。就農後も自治体の担当者からはさまざまな情報を入手し、補助金を活用して農業機械を導入したり、牛舎を増築して牛を10頭増やしたりするなど、経営拡大にもチャレンジしています。「地域振興局とJAが連携して、大規模農家への見学会や獣医師による講演会が開催されるなど、いろいろとお世話になっています。JAからは「未来農業のフロンティア育成研修」修了者向けに年2回視察に来てもらってアドバイスをいただくほか、新規就農者のサポートチームによる巡回指導が行われていて、とてもありがたいです。」秋田県では自治体とJAが一体となって新規就農サポートに取り組んでいるのも、大きなポイントです。

肉用牛繁殖の仕事は年間を通して収益を確保できる

竹原さんの1日のスケジュールは、朝6時半ごろからスタートします。朝夕2回の給餌と牛舎の清掃などで仕事を終えるのは、平均して18〜19時ごろです。繁殖のための種付けや人工授精、分娩(ぶんべん)などがあればその都度対応が必要になります。以前までは、メス親牛の分娩時、深夜や早朝を問わずつきっきりで世話をしていましたが、竹原さんの代になってから牛舎に見守りカメラを導入。離れた場所から牛の様子をモニタリングできるようになり、作業負担がかなり軽減されました。牛は暑さ、寒さなど気温の変化に敏感で、環境を整えておくことも重要です。竹原さんは牛舎の環境改善にも取り組み、新たに大型扇風機を設置しました。「生き物を飼育する仕事は大変なことも多いですが、畜産業であれば、季節に左右されません。牛の体調の変化に気をつけてやっていけば、雪のあるシーズンにも収入が途絶えることがないのは魅力です。」

牛の頭数が増えて収入がアップするも物価高騰の影響が

畜産業は、農閑期とよばれる冬の季節も安定的に収入が見込めるうえに、竹原さんの牧場では牛の数が10頭増えたことで収入も順調にアップしています。飼料でもあり、牛の寝床に敷く寝わらにもなる牧草は、自身が管理している20haの牧草地から調達できるのも強みです。ただ、牛は飼料として牧草だけを食べるわけではなく、エネルギー源として穀物も与えなければいけません。新型コロナウイルス感染症による景気の悪化や世界情勢の変化などにも影響を受け、毎月といっていいほど、穀物の値段が上がっているという厳しい状況です。「経費が高騰しているのに、子牛の値段は落ちてきているので、うんざりすることもあります。それでも生まれた子牛が順調に大きく育っていくとうれしいですし、市場で評価されるとやりがいを感じられます。今後は賞を取れるような牛を育てることにもチャレンジしていきたいですね。」子牛一頭あたりの値段に90万円がつけられたこともあったという竹原さん。現在の価格は60〜70万円程度で推移していますが、出荷する子牛を平均的に75万円程度で販売していきたい考えです。そのためには子牛に与える飼料を工夫するなど、品質向上をめざして動き出そうとしています。

繁殖の課題を解決しながら、堅実な経営をめざす

竹原さんは、安定的な牧場経営を考えるうえで、ひとつ課題があると言います。「本来であれば、毎月同じ頭数の子牛が生まれるのが理想です。現状では、発情のタイミングが合わなかったり、流産してしまったり、月によってばらつきが出ています。毎月コンスタントに子牛が生まれる状況を作るために、牛の繁殖も計画的に行っていきたいと考えています。」牧場の経営については、無理に規模を拡大していくより家族で堅実に運営していきたい考えで、祖父母や両親、妻と支え合いながら、一歩ずつ着実に進んでいます。畜産業を営んでいると、休みがなかなか取れないというイメージがあるかもしれません。竹原さんは、一緒に働く両親の協力のもと、休日に妻とふたりで旅行に出かけるなど、家族の時間も大切にしています。「秋田県は南北に広く、自然も豊富です。いろんな観光地があって食べ物もおいしいですよ。土地が広いので、農業ができる土壌があるし、県や市のサポートも活用できます。」冬の雪かきは大変ですが、畜産業なら季節に関係なく収入が安定するのが魅力だと話す竹原さん。家族とともに地域の産業を盛り上げる若い世代の今後の活躍が楽しみです。