先輩農家の体験記

Interview


菅望咲

■所在地:秋田県 湯沢市
■栽培品目/栽培面積:トマト
■売上金額年によって変動有り。
■販路:JA
■家族構成:父、母、兄、姉、祖母
■就農時の年齢:20歳
■利用した補助事業:青年就農給付金(現 新規就農者 育成 総合対策(就農準備資金・経営開始資金))


地域初のトマト品種で新規就農。「半農半X」が理想の生き方

子どものころから身近だった農業を選び両親へ恩返し

湯沢市で新規就農して5年目の菅望咲さんは、稲作農家を営む両親のもとに生まれました。小学生のころから野球が大好きで、東京の高校へ進学して練習に打ち込む菅さんを、両親は応援してくれていたと言います。高校卒業後は、スポーツ関連の仕事をしたいと思っていましたが、それだけで生活を成り立たせるのは難しいと判断。実家に戻って農家になることで両親に恩返しをしたいという思いと、農業をしながら自分自身のやりたいこともあきらめない「半農半X」を意識していた菅さんは、岩手県の農業大学校へ進学しました。農業大学校2年目の研修では、1年間を通して栽培した作物の試験を自ら行い、論文を執筆するカリキュラムがありました。そこで、出会ったのがトマトの「フルティカ」。トマトが苦手だった菅さんが、これなら食べられる、と思えた品種です。その後、独立就農する際には、トマトが苦手な人や子どもに「甘くて食べやすいフルーツトマトを食べてもらいたい」という考えから、トマト農家への道を選択しました。

地域のJAのサポートで就農資金確保や出荷もスムーズに

実家が農家であることが強みとなり、父からのサポートが受けられるほか、相談に乗ってくれるスタッフも在籍しているため、就農前に大きな不安を感じることはあまりなかったと言う菅さん。それでも、トマト栽培に必要な設備を用意するために、資金が必要です。年間最大150万円を受け取れる青年就農給付金(現新規就農者育成総合対策(就農準備資金・経営開始資金))を利用するには、5年間の事業計画書(青年等就農計画)を提出しなければならず、地域のJAにも力を借りて作成。その後、資金を確保できた菅さんは、自動潅水システムや小型トラクターを導入しました。さらに、出荷に関しても事前にJAに相談。近隣ではトマトといえば大玉が主流です。菅さんが作りたいと考えていた「フルティカ」は中玉の品種で、出荷時に必要なパックや箱、袋などの包装資材のサイズが従来と異なるため、取り扱ってもらえるかわからない状況でした。JAから市場へ働きかけてもらい、スムーズにスタートすることができたと言います。地域のJAには、事業計画書や出荷に関する調整以外にも、トマトの栽培管理でわからないことや時期に合った薬剤の種類について教えてもらうなど、必要に応じて相談しており、困ったときには力になってもらえる心強い存在です。

苦しい時期を経て少しずつ業績も上向きに

菅さんの1日のスケジュールは、朝5時からスタート。トマトの収穫を7時半ごろまで行ってから休憩し、その後はお昼過ぎまでトマトの管理作業を行います。午後からは翌日の出荷調整を行い、再び管理作業を行うなど夕方6時半ごろまで仕事をしているそうです。トマトのほ場は、もともとほうれん草を栽培していた場所。土壌に含まれる肥料成分や比率がトマトに適したものではなく、就農当初の1〜2年は収量が上がらず、品質もいいとは言えない状況でした。5年目を迎えた2022年は、ようやく収量が増え、品質も安定してよい兆しが見えてきました。実際に農業をしてみると、売上や市場の価格変動、天候不順などでうまくいかないこともあったと振り返る菅さん。そんななか、少しずつでも業績が上向きになってきているのを実感しています。

おいしいトマトを作り食べる人を笑顔にしたい

近隣では同じ品種のトマトを栽培している農家がおらず、部会がありません。同業者との接点はあまりないものの、地域の人から頻繁に声をかけてもらえることが、励みになっていると言います。「ご近所の人たちから「頑張っているね」「あまり無理しないでね」と言ってもらえたり、規格外で出荷できないトマトをおすそ分けしたりすると、「おいしかったよ」「また食べたい」と感想を伝えていただけることもうれしいです。」菅さんが農業を営むうえで目標にしているのは「自分が作るトマトの品質や味をもっとよくして、食べる人を笑顔にしたい」ということ。無理に規模拡大をするよりも、しっかりと現状を維持し、おいしいトマトを作り続けて行きたいと話します。

半農半Xで季節ごとに変わる生活スタイルを楽しむ

農業以外にも自分自身が関心をもっている分野にチャレンジする「半農半X」が理想だという菅さん。現在、夏は秋田で農業、冬は新潟でスキー関連の仕事をしています。「身体を動かすことが好きなので、キャンプやサップなどアウトドアの分野にもチャレンジしていきたいです。試行錯誤しながら挑戦中ですが、一歩踏み出したいですね。今の生活は季節によってメリハリがあるので、うまく切り替えることができています。」農業もやりたいことも、両方あきらめない。季節によって変化する生活スタイルを楽しむ菅さんの生き方は、これから農業を始めたいと考えている人にとっても大きなヒントになるのではないでしょうか。