先輩農家の体験記
Interview
株式会社権右衛門
佐々木唯翔
■所在地:秋田県にかほ市
■栽培品目/栽培面積:水稲/43ha、ねぎ/1.6ha
■従業員:4名
■就農時の年齢:18歳
「農業は個人から会社で行う時代に」というビジョンに共感し雇用就職を決意
秋田県では農業法人の数が年々増加しており、就職する人も増えています。令和5年度に秋田県内の農業法人などに雇用された人は191人と新規就農者の約7割を占め、統計を取り始めてから最多人数となりました。
佐々木唯翔さんが、秋田県にかほ市で水稲と長ねぎの生産・販売を行う須田貴志さんのもとで雇用就農の道を選んだのは、高校在学中の18歳のときでした。
須田さんから「5年後、10年後には、農業は個人から会社としてやっていく時代になる」と聞き、須田さんが会社立ち上げの準備をしているタイミングだったこともあって「農業をやってみようと思えた」と振り返ります。また、1から10まですべて、一貫して作物を作ることができる農業の形にも魅力を感じたそうです。
就職して5年目。2021年に株式会社権右衛門が設立され、そのビジョンが現実のものとなり、「農業でも稼げる」「農業も職業のひとつの選択肢として選べる時代になってきている」と実感しています。
一年を通し安定して働ける米とねぎの複合経営
水稲と長ねぎを生産している権右衛門では、どんな1年を過ごすのでしょうか。
仕事の切り替わりを感じるのは、実は真冬の2月とのこと。
権右衛門では、2月に長ねぎの種まきをはじめ、4月末くらいまではねぎの苗を育てます。
雪が溶けるのは3月。田んぼに入れるようになると、水路の整備を始めます。
4月になると、ようやく稲の種まきをし、苗を作ります。ここから一気に忙しくなり、育った苗を5月から6月の初旬にかけて「ひたすら」田植え。その後にねぎの植え付けを行ったあたりで、春先の忙しさが一段落するそうです。
7〜8月はドローンで農薬散布をしながら、稲の水管理やねぎの生育管理を行います。
9月から10月末くらいまでは、稲刈りと出荷の繰り返しです。「5月、6月と10月が同じくらいの忙しさ。その時はほぼお休みがありません」と苦笑いする佐々木さんですが、「冬やちょっと作業が落ち着いているときに多めに休めるので問題はないのかな」と冷静です。
11月から1月、2月は、ねぎの収穫、出荷調整作業に加え、翌年の生産計画を立案する大切な時期です。同社で認証を受けているASIA GAPの関連書類もこの時期に作成します。
秋田県の中でも雪の少ないにかほ市では、冬でも農作業が進められるため、権右衛門では年間を通して仕事があります。雪が降らないのを見込んで、ねぎの生産面積を増やしています。
非農家出身の佐々木さん。収穫の喜びは思っていた以上に大きかったそうです。また、夏場の暑さ、冬の寒さは大変でも、自然の中で仕事をする気持ちのよさも農業の魅力だと考えています。
大規模経営の農業法人だから早くスキルアップできた
現在43haを経営する権右衛門。農業をやめる人から農地を引き受け、生産面積は年々増え続けています。
農作業は毎年同じことの繰り返しですが、季節の変化があるため、1年の中で同じ作業を行う機会は、それほど多くありません。権右衛門のように規模が大きい農業法人では、短期間に同じ作業を繰り返すことで技術を早く習得でき、スキルアップができたと佐々木さんは語ります。
スマート農業で楽しみながら作業効率化・負担軽減
権右衛門では、若い社員に最新の機器を使って楽しみながら作業をしてもらいたいと、積極的にスマート農機やドローン、アイガモロボットを取り入れ、作業の効率化、負担軽減を図っています。
佐々木さんは圃場での作業を全般的に担当するかたわら、ASIA GAPに関係する書類作りにも携わっています。
「機械に乗るのは結構好きな方。農業機械は、自分が操縦している感じがすごくあるので楽しい。」
身近に仲間がいるのも雇用就農のよさ
権右衛門の社員は30代、40代の若いメンバーがほとんどです。
会社で農業をするメリットは、身近に仲間がいるため相談がしやすく、一緒に作業するので作業性も上がること。あちこちに散らばった農地をなるべく一筆で回れるよう、メンバーみんなで知恵を出し合ってルートを考えたり、ひとりで作業をした時につまずいたことを話し合えたり、行き詰まらないのがいいと言う佐々木さん。
「草刈りなど、同じ作業の繰り返しを一人でしていると孤独を感じたりするんですけど、会社に戻れば社員がいて、こうだったんだよねなどと話せるところが、会社で農業をするすごくいいところなんじゃないかな。」
若手とベテランをつないで地域の農業を盛り上げたい
権右衛門の代表・須田さんは、にかほ市内で400年以上農業を続けてきた農家の出身です。先祖代々続く農地を地域で守っていきたいという考えから、家業を法人化して権右衛門を立ち上げ、農作業の受託事業も行っています。
「ベテランが活躍できるあと数年のうちに、若い人とベテランをつなぎたい」と積極的に若手を採用しています。
農作業自体は機械化が進む一方、依然として体力も必要です。また、スマート農業など新しい農業への移行途中でもあり、暗黙知となっていた経験とデータの両方を読み解く力が必要です。
「高齢化している農家がたくさんいます。その農家ができない作業を若い力で請け負うことで、その農家と若手スタッフとの交流ができます。若手がサポートしながら、ベテランの方も農業をできるような環境を作りたいです。」
須田さんは秋田県の新規就農の特長として、農地が探しやすいことを挙げます。
権右衛門のあるにかほ市も田んぼが多く、「にかほを農業が盛り上がる場所にしたい。農業で盛り上げて人を集めたいなと。地域を良くするためには若い農業者を増やして、どんどん農家が増えることで、農業を盛り上げていけたら」と語る須田さん。「とにかく失敗してでも経験を積んでもらって、1年1年少しずつ成長してもらえば」と佐々木さんをはじめとする若い農業者に大きな期待を寄せています。
農業を職業のひとつの選択肢に
社内では最年少の佐々木さん。自分より若い人にも会社に就職して農業をする楽しさや魅力を伝えて一緒に働く仲間を増やしたいと考えています。
「作業の全部が機械でできる時代になっているので、そんなに肉体労働はいらない」「山もあり、海もあり、田んぼもあり、水もきれいだし、食べ物もおいしいし、地元で採れた米でできた酒もありますし、にかほに来れば、何でも揃うんじゃないかなと思います」と語る佐々木さん。権右衛門で働くことで、自然とこれまでの農業や地元のイメージが変わりました。
そんな佐々木さんに、将来について伺ったところ、権右衛門の経営も視野に入れているようです。
「これからも栽培面積が増えていくだろうし、人も増やしていかないと間に合わなくなっていく中で、人を雇用しても十分に会社として成り立っていけるような、そんな会社を経営したい。」
法人での農業経営をさらに推し進め、「農業を、職業のひとつの選択肢として選べる」時代を創っていくことでしょう。
その他の体験記
地域:秋田県 山本郡 藤里町
品目:羊肉、羊毛
品目/敷地面積:羊(テクセル種、サフォーク種、カラード、交雑種)飼育頭数約150頭/放牧地5ha
敷地面積:羊(テクセル種、サフォーク種、カラード、交雑種)約150頭