先輩農家の体験記

Interview


齋藤諒汰

■所在地:秋田県 由利本荘市
■栽培品目/栽培面積:りんご(ふじ、シナノスイートなど 20 品種 ) / 2 .3 ha 、ぶどう(シャインマスカット ほか 5 品種)/ 50 a 、米 1.4ha
■売上金額年間約 800 万円
■販路:直販(自社販売、直売所出荷、加工 品 )
■家族構成:祖父母、父母 、妹
■従業員:4名
■就農時の年齢:20歳
■利用した補助事業:未来農業のフロンティア 育成 研修/農業次世代人材投資資金( 現 新規就農者 育成 総合対策(就農準備資金・経営開始資金))/新時代を勝ち抜く!農業夢プラン応援事業/青年等就農資/


祖父から受け継いだりんご園を守り、販売方法の見直しで収益アップを実現

中学校3年生で果樹農家を志す

2haの畑で約20種類のりんごを栽培している齋藤諒汰さん。もともと祖父がりんご農家でしたが、農家になりたいと思ったのは、中学3年生のときに果樹試験場で開催された果樹参観デーがきっかけでした。興味を持ったのはりんごではなく「シャインマスカット」。そのおいしさに驚き、可能性を感じたと言います。高校卒業後、就農したいと言うと家族からは反対されました。「農業は、天候に左右されるうえに重労働、設備や機械を購入するのに資金が必要。何よりも儲からない」と言われ、社会人になったばかりの齋藤さんが苦労するのではないかと心配したそうです。それでも農家になる決意をした齋藤さんは、地域振興局に相談。担当者から県が主催する「未来農業のフロンティア育成研修」への参加を勧められ、果樹試験場で2年間の農業研修を行いました。秋田県由利地域振興局では、営農計画や認定新規就農者の認定を受けるための収支計画作成をサポートしてもらい、由利本荘市にも相談。国の事業「農業次世代人材投資資金(現新規就農者育成総合対策(就農準備資金・経営開始資金))」を活用し、就農への準備を進めました。

した。


就農後は金銭面に対する不安もあった

就農後、齋藤さんは祖父からりんご園の経営を引き継ぎました。また、県と市の補助事業「新時代を勝ち抜く!農業夢プラン応援事業」を活用して、念願だったぶどうの蔓を張らせるぶどう棚を作り、50aの園地でぶどうの栽培もスタートしました。ぶどう棚を設置する費用は約500万円。そのうち、県からの補助が3割、それに市の補助が加わり、費用の半額近くの補助を受けることができました。思い描いた通りに果樹農家になったものの、不安もあったと言います。祖父から受け継いだりんご園の経営をうまくやっていけるのかということに加え、ぶどうの苗木を植えたばかりの初年度、収入がないことへの焦りも感じていました。地域振興局からのアドバイスを受け、金銭面での問題は「農業次世代人材投資資金(現就農準備資金・経営開始資金)・経営開始型」、日本政策金融公庫の無利子の資金「青年等就農資金」を活用することができました。就農に反対していた家族も、今では協力的で支えてくれています。

夏は朝4時から夜8時まで。果樹園のハードなスケジュール

由利本荘市の齋藤さんの園地は、秋田県でも比較的積雪が少ない地域。低い位置で枝を伸ばせるので、作業効率がよく、栽培にとって大きなメリットになっています。毎年、2月からりんごの木の剪定(せんてい)を始め、不要な枝を落としていきます。春になり、芽が出てくると農薬や肥料を散布したり、古くなった木を新しい木へ植え替えたりします。夏に農薬散布を行うときは朝4時から作業し、遅いときは夜8時ごろまで草刈りに追われるというハードスケジュール。果樹園は5カ所に点在しているため、1日のうちに何度も移動を繰り返しながら仕事をしています。最も大切なのは、摘果作業です。りんごは1つの芽から5〜6個の花が咲き、実をつけます。そのなかの1つに養分を集中させて果実を大きく育てるために、残りの幼果は全部落とす必要があります。齋藤さんの園地には約2,000本のりんごの木があり、繁忙期にはパート従業員7名を期間雇用して対応しているそうです。

秋の収穫シーズンの喜びがあるからこそ頑張れる

栽培期間中はハードな日々を送る齋藤さんですが、秋の収穫シーズンは喜びもひとしおです。「天候が安定しなくて大変なこともありますが、1年かけて作ってきたものが秋に収穫できたときは大きな喜びを感じます。」積雪が多い地域では、作業ができなくなる前にりんごをすべて収穫するため、熟しきっていない果実も採らざるを得ません。齋藤さんの園地では、通常12月まで、年によってはクリスマスごろまでりんごを収穫できます。「果実を長く木に生らせておくと、りんごが完熟しておいしくなりますが、木からは養分がなくなってしまいます。来年のことを考えると、早く実を採ってしまうに越したことはありません。それでも、完熟したものはおいしいですし、うちのりんごの特徴でもあります。」果樹は収穫したら終わりではなく、収穫後も手入れが欠かせません。齋藤さんは、「農業は時間の自由がきくところがメリット」だと感じていますが、自由がきく分、やることをきちんとやっておかないと、作業がたまって後が大変なことになる、とも話してくれました。おいしいりんごを作るために、作業は尽きません。

直販スタイルで販売方法を工夫し、売上アップを実現

果樹園全体の売上は、祖父から齋藤さんの代になって150万円以上アップし、年間約800万円になりました。もともと祖父は、収穫したりんごを市場出荷ではなく顧客へ直接販売しており、贈答品としての需要もありましたが、それほど収入は多くなかったと言います。齋藤さんも直販スタイルを踏襲していますが、直売所への出荷割合を増やし、インターネットでの販売やふるさと納税の返礼品、ジュースを作るなど6次産業化にも力を入れたことが、売上げアップにつながりました。また、「農業近代化ゼミナール」という若手農家のグループに所属し、直売会や研修会、視察なども積極的に行っています。そこでの情報交換も、販売促進につながっているのです。「売上が伸びたのは、売り方を変えたことも理由の1つですが、まわりの農家からの紹介で物産展などのイベントに参加したことも大きいです。人とのつながりで売上が上がっているとも言えますね。それと、自分が育てたおいしいりんごを安売りするのではなく、自信をもって適正価格で販売することも大切だと思います。」さらに、高齢化のためりんごの栽培をやめる農家が顧客に齋藤さんを紹介し、齋藤さんの家に直接りんごを購入しに来る人も急増。りんごの数が足らなくなることもあるそうです。

法人化か観光農園か。10年後を見据えて模索中

高齢化によって地域の農家が減っていくなか、その園地の管理をまかされることも多くなってきました。後継者不足がクローズアップされるなか、地域の人たちが好意的に応援してくれているのもありがたい話です。一方で、栽培規模が拡大することに対する懸念も。これ以上園地が増えると、個人的な経営では手が回らなくなりそうだと感じています。「法人化して従業員雇用も視野に入れる必要がありますが、面積が広がるのであれば、お客さんに収穫してもらうのも手だと思っています。今、観光農園に興味を持っていて、県外の施設に見学に行くこともあります。」就農当初、「農業はもうからない」と家族から心配されたものの、さまざまな取り組みによって売上アップを実現してきた齋藤さん。観光農園への道はまだまだ模索中ですが、よりよい農業経営をめざし、10年後を見据えたチャレンジが楽しみです。