先輩農家の体験記

Interview


見上魁耶

■所在地:秋田県 能代市
■栽培品目/栽培面積:ねぎ / 40 a
■売上金額年間約 140 万円
■販路:JA
■家族構成:祖父、母、 妻、子
■従業員:3名
■就農時の年齢:18歳
■利用した補助事業:新時代を勝ち抜く!農業プラン応援事業


祖父とともに地域のブランドねぎを育て、経営規模拡大を実現したい

祖父の背中を追いかけ、家業を継いで農家に

子どものころから農業が身近にあった見上魁耶(みかみかいや)さん。現在は、祖父、母と妻、2人の子どもと能代市で暮らしています。祖父が米9ha、ねぎ2.4haを栽培しており、そのうちの40aが見上さんの経営する畑です。農業を継ぐことを決めたのは高校生の時でした。母からは「ほかの道を考えてみてもいいのでは」と心配されましたが、見上さん自身は迷うことなく高校卒業後すぐに農家になりました。現在は家族全員で農業に従事しており、見上さんと祖父は主に畑での作業、母と妻は出荷作業を担当しています。加えて、年間を通して叔母が手伝いに来てくれるほか、繁忙期には2名のパート従業員を雇用しています。


収穫の喜びは、何ものにも代えがたい

見上さんは就農後、秋田県の補助事業「新時代を勝ち抜く!農業夢プラン応援事業」を活用してトラクター、ロータリー、コンプレッサー、ネギの根葉切り機を購入。「自分のトラクターが納品された時はワクワクした」と言う見上さんですが、「手伝い」が「仕事」になった途端、つらいと感じる作業もあったと言います。農家を継ぐという決断を母が最後まで心配していた理由が、就農してからよくわかったそうです。特につらいのは、雪が積もる前に、出荷準備をするために畑からネギを掘り出してハウスに移す作業。2〜3週間、朝から晩までネギを手掘りする日が続きます。秋田の11月の最低気温は約4°C。時には氷雨や雪の降る中での作業もあります。しかし、そんなつらさも「収穫の喜びには勝てません」と見上さんは迷いなく言います。手を抜けば良い作物はできないということが身に染みてわかっているからこそ、太く育った立派なネギを収穫できたときは、大きな喜びとなるのです。さらに、見上さんは技術が向上すること自体も楽しんでいます。「同じ面積をどれだけ速く収穫できるか、記録を更新するぞ!と毎朝気合いを入れています。」農業のよさは、1年のサイクルがはっきりしているところだと話す見上さん。冬の出荷が終われば、2カ月しっかり休んでまた1年頑張る英気を養います。

地域のブランドねぎを栽培する農家が増えている

県外に出て行く同級生が多い中、秋田で家業を継いだ見上さんは、「農業には夢がある」と話します。まわりから、ねぎ農家になったことをうらやましがられることもあるそうです。見上さんが栽培している白神ねぎは2015年から7年連続で販売額10億円を達成しています。柔らかな食感とシャキシャキとした歯応えを兼ね備え、太く甘みの強いのが特徴のブランドねぎです。ねぎにはさまざまな品種があり、冬の2カ月間を除き、年間を通して収穫できるので収入が安定することも利点。白神ねぎの急成長とともに、見上さんのまわりでもねぎ農家が増えていると言います。多くの農家で品質の良い作物を作ることが、白神ネギのブランド価値を高めます。その意味でも、ねぎ農家同士はライバルではなく仲間として、切磋琢磨(せっさたくま)しています。

尊敬できる人に囲まれて仕事をする

見上さんにとって、モチベーションの最大の源は祖父の存在です。農業を仕事にするまではわからなかった祖父の人間力を、今は間近で感じています。豪雨で畑が大きな被害を受けた時も、惨状を目にして落ち込む見上さんの横で、「なんとかなる」と動じない祖父に、精神的にも助けられました。そんな祖父が、腰を痛めて農作業ができなくなったとき、見上さんがひとりで奮闘し、大変な時期を過ごしたこともありました。ちょうどねぎの収穫と稲刈りが重なる9月から12月の約半年間でした。普段の繁忙期は、農業用マッチングアプリで短期アルバイトを募り、人手不足を補うことができますが、このときはあまりの作業量の多さで対応しきれませんでした。通常、見上さんが畑で作業する時間は朝8時から夕方5時までですが、その時は寝る間も惜しんで作業を続けました。このできごとで祖父の力量を実感し、ますます追いつきたいという憧れが強くなりました。一方で、祖父がいなくなったときのことを考えると、まだ心配は尽きないと不安をのぞかせる見上さんですが、畑にいると、まわりの農家から声をかけてもらうこともしばしば。見上さんのまわりには、「こんな風になりたい」と憧れる農家が、祖父のほかにもたくさんいます。尊敬できる人に囲まれて仕事をすることで、農業への誇りが日に日に胸の中で育っていくのを感じるそうです。

家族とともに支え合い、ねぎの栽培拡大をめざす

見上さんには、いずれは祖父のほ場全てを引き継ぎ、さらに規模を大きくしたいという夢があります。今後、白神ねぎの比重を増やしたいそうです。「ねぎは、手をかければかけるほど品質のよいものができ、収益も上がります。何より作っていて楽しいのです。」そのために今も、祖父の背中を見ながら着実に経験を重ねていますが、どんなに経験を積んでも、農業では前例のないことが起こります。これまでに、祖父でも対応に迷う事態になった時は、能代市の農業技術センターで最新の情報を提供してもらいながら課題を解決しました。キャリアと知識、そして強い精神力を持つ祖父と家族のサポートに当たる母、「白神ねぎガール」としてイベントやメディアを通じて白神ねぎのPRをしている妻と一緒に、それぞれが同じ想いを胸に農業に励んでいます。自然を相手にしていると、予想もしなかったような困難を乗り越えなければいけないこともあります。支え合える家族がいること、祖父の築いてきたものを守りたいという強い想いを原動力に、見上さんは日々夢に向かって邁進(まいしん)しています。