先輩農家の体験記

Interview


黒川清貴

■所在地:秋田県 鹿角市
■栽培品目/栽培面積:きゅうり /10a 、もも /30a 、りんご /1ha
■売上金額年間約240万円
■販路:J A 、一部直販
■家族構成:父、祖母
■就農時の年齢:34歳
■利用した補助事業:鹿角市新規就農者研修/かづの農業夢プラン応援事業/果樹未 収益期間支援事業


代々受け継いだ土地を生かし、自身の工夫でよりよい農業経営をめざす

高校卒業後、東京の専門学校に通い、その後10年間事務職として働いていた黒川清貴さん。30歳を過ぎたころに将来への不安を感じ、転職を意識するようになりました。実家は、鹿角市で1haのりんご園を営んでいます。「父の跡を継いで経営拡大をめざし、自分自身のちからでどこまでできるか挑戦してみたい」との思いから、秋田に戻って農業を始めようと決意しました。父から、「まだ若いので、帰ってくるならちゃんと農業の勉強をした方がいい」とのアドバイスをもらい、市役所にも話を聞いて、翌年から鹿角市新規就農者研修に1年間参加することになりました。当初は、りんご栽培のみを勉強するつもりでしたが、研修先の農家ではももの栽培も手がけていたことから、ももについても教えてもらうことができました。また、先輩農家の紹介で、地域のきゅうり部会の部会長の収穫の手伝いをさせてもらうなど、きゅうり栽培についても知識を深めていきました。

不安があったものの、関係各所からのサポートに支えられた

1年間の研修を終え、独立就農への道を歩み始めた黒川さん。父が管理している1haのりんご園は、いずれ経営を引き継ぐ予定ですが、まずはきゅうりとももの栽培に着手しました。きゅうりの畑は、自宅の横にずっと使われていなかった土地があり、農地中間管理機構に問い合わせて所有者を紹介してもらい、直接交渉。ももの園地は、父のりんご園の横にある近隣農家の空いている畑を借りられることになりました。新規就農者としてスタートする際には、不安もあったと言います。りんごは、父の手伝いをしてきたのでなんとかできると考えていましたが、きゅうりやももはゼロからのスタートです。特に、きゅうりは早朝から収穫・出荷作業があり、やっていけるか不安でした。いざ始めてみると、「自分の仕事だと思うと、何でもできる」という発見もありました。畑づくりに関しては知識豊富なJA職員からアドバイスをもらっています。JAや県の職員は、1〜2週間に1回程度畑を訪れ、栽培や肥料などの様子を観察。その都度必要な情報を伝えてくれます。また、県の農業振興普及課による実証試験に参加できることになり、水はけの悪い畑の排水対策もサポートしてもらえました。「父をはじめ、県や市などの行政機関、JAなど関係各所の担当者、先輩農家など、さまざまなサポートに助けられている」と話す黒川さんからは、周囲の人に対する感謝の気持ちが強く伝わってきました。

黒川さんは、資金面についても不安を感じていました。初期費用として用意した自己資金は、前職の退職金など約150万円。研修期間中は、月額10万円の鹿角市新規就農者研修の奨励金を受け取ることができましたが、貯金を取り崩しながら勉強をしました。その後、就農時には農業機械や設備などへの投資も必要になります。黒川さんは、県と市の補助事業「かづの農業夢プラン応援事業」を活用し、防除用のマルチスプレイヤー、自動灌水システムを導入。また、日本政策金融公庫からの借り入れで軽トラックも購入しました。収入については、きゅうりの場合、1年目から収穫が可能で、240万円の売上がありました。ただ、ももに関しては、苗木を植えてから収穫できるまでに数年かかります。その間は未収益期間となりますが、幸い、JAの果樹未収益期間補助事業を利用できました。もも30aに対し、110万円(初年度1回のみ)の支給を受け、資材や苗木の購入費に充てることができたため、自己負担は必要ありませんでした。

農業は頑張った分だけ返ってくる

1年で最も忙しいのは、きゅうりの最盛期の夏です。1日のスケジュールは朝5時の起床からスタート。7時ごろまで収穫、選果・袋詰めを行い、9時までに出荷作業を終えます。その後、再び畑へ行って、病気や害虫が発生していないか見て回ったり、摘葉して日当たりをよくしたりするなど管理作業をします。午後も管理作業を行ったのち、夕方再び収穫、選果を行い、遅いときには夜7時30分ごろまで作業が続くそうです。春や秋は父のりんご園の手伝いがあり、花や葉を摘み取ったり、小さな実を摘果したり、朝8時から夕方5時ごろまで作業をします。さらに、黒川さんはりんごの剪定(せんてい)組合にも所属して仕事をしています。冬の間は近隣のりんご園を回って、不要な枝を剪定していて、年間を通して収入を確保できています。農業は天候に左右されるので、大変なこともあると言う黒川さん。2022年は雨が多く、作物の生育にも多数問題が発生しました。2021年に比べると収量も少なくなってしまったそうです。苦労は多いですが、それでも農業には会社員時代とは違った醍醐味(だいごみ)があると話します。「これをやってと指示されるのではなく、自分で明日の段取りを考えるようになりました。農業は、自分が頑張ったら頑張った分だけ返ってくるのでやりがいがあります。」

若いころには気づかなかった地元秋田の魅力を実感

黒川さんは今後、父のりんご園を受け継ぎ、認定農業者になりたいとの目標をもっています。全体の売上が500万円に到達できるよう計画を立てながら、数年後の経営継承に備える考えです。「現在、りんごは一部直販もしていますが、JA出荷がメインです。今後はももなども合わせてSNSを活用し、贈答品の販売を増やすなど、売上を伸ばしていきたいと思っています。」自身で新しく始めたきゅうりともものほか、代々受け継いできたりんご園を生かし、農業経営を軌道に乗せたいと意欲をのぞかせる黒川さん。地元秋田での生活を楽しむ余裕も出てきました。「東京での暮らしは、1日中騒がしかった。秋田は、1日中虫の声が騒がしい。同じ騒がしいなら、虫の方がいい(笑)。冬は雪が多くて大変なこともありますが、それもこの土地のよさだと思って過ごしています。」渓流釣りなどのアウトドアが趣味で、プライベートも充実。自然が豊かなところも、秋田ならではのよさだと実感しています。故郷での心豊かな暮らしを手に入れた黒川さんのこれからの活躍が楽しみです。