先輩農家の体験記

Interview


石橋鮎美

■所在地:秋田県 仙北市
■栽培品目/栽培面積:ダリア 27 品種 (ビニールハウス 7.2 × 41.4m 4 棟、 5 .4 × 41.4m 1 棟 )
■販路:J A 、 直売所、スーパー
■家族構成:夫、子ども 2人、父母、曾祖母
■就農時の年齢:37歳
■利用した補助事業:新時代を勝ち抜く!農業夢プラン応援事業/農業次世代人材投資資金(現 新規就農者 育成 総合対策(就農準備資金・経営開始資金))


福祉施設の支援員からダリア農家に転身し、自分軸の生活を実現

いずれは農業に関わる仕事がしたい。ダリア農家への道

秋田県大仙市出身の石橋鮎美さんは、結婚後、仙北市で約10年間障害者福祉施設の支援員として勤務していました。嫁ぎ先が農家で、いずれは農業に関わる仕事ができれば、と考えていた石橋さん。知り合いのダリア農家からダリアをもらったときに「きれいだな」と、興味をもち、自分でも育ててみたいと思ったと言います。石橋さんは、夫と一緒に一年間、義父母の畑にあったハウスを借りて、ダリアの試験栽培をしてみることにしました。試験栽培をしている間、近隣のダリア農家の先輩に教えてもらいながら勉強した石橋さん。1年後、本格的にダリア栽培を始める決意をし、障害者福祉施設を退職して新規就農に向けての準備を始めました。

投資額の大きい施設栽培に補助金を有効活用

就農準備については、仙北市役所に相談しました。事業計画書(青年等就農計画)は担当者にアドバイスをもらいながら作成。農地については、家の目の前にある義父の田んぼを借り受けることができました。1年目は、作業効率を考えて暖房設備付きのビニールハウス2棟を建て、露地栽培も並行して行う計画を立てました。本来、霜が降りるころまでに栽培を終了すれば、暖房設備は不要です。石橋さんは、周年栽培を実現するために、12月中旬ごろまで出荷したいと考え、また、冬に苗作りを行うため、加温してダリアの株を生かしておく必要があり暖房設備を導入。さらに、電照器具や電柱、電線の設置など、設備に付随する必需品にもコストがかかりました。通常、積雪の多い地域では、ハウスのビニールを外して越冬するのが一般的です。石橋さんのハウスは冬も稼働しているため、排雪のための融雪溝を掘り、水を流して屋根から落ちた雪を融かす積雪対策を施しています。対策が功を奏し、これまでの2シーズンは、除雪で苦労することはありませんでした。

施設栽培を始めるためには、それなりに投資額が大きくなります。暖房設備を導入しているハウス(7.2×41.4m)は1棟およそ800万円、暖房設備がないハウスでも1棟600万円程度は必要になります。石橋さんは、県と市の補助事業「新時代を勝ち抜く!農業夢プラン応援事業」を活用し、設備投資の4割を助成してもらうことができました。また、年間最大で150万円を5年間受給できる国の補助事業「農業次世代人材投資資金(現新規就農者育成総合対策(就農準備資金・経営開始資金)」を利用することで、新規就農後の経営が不安定な時期も、安心して仕事に取り組むことができています。

社会的背景や天候に大きく左右されるなかで努力を続ける

石橋さんの1日のスケジュールはややハード。実家の母が手伝いに来てくれたり、休日には夫も作業をしたりしますが、基本的に栽培管理は1人で行っています。朝は5時(夏は4時)からハウスでの収穫作業がスタート。一旦家に戻り、子どもたちが学校に行った後、ハウスに戻って芽かき、葉かきなど、ほ場の整備をします。お昼をはさんで午後からの作業を終えると、家事もこなします。出荷はおもにJAへ週3日のペースで行い、少量を直売所やスーパーでも販売。1本あたりのダリアの販売価格は120〜130円を目標にしています。当初の事業計画では、年間売上目標として400万円程度を見込んでいましたが、やや厳しい現状にあると言う石橋さん。初年度の2020年は、新型コロナウイルス感染拡大の影響を受け、花の需要が大きく落ち込みました。2022年は大雨によってほ場の水はけが悪くなり、生育が思うようにいかなかったことも影響しています。2022年、ダリアの生産量を増やすべく、水稲用の育苗施設として使っていたハウスを義父からゆずり受けました。ダリアの定植時期をずらすことで、義母がそのハウスで引き続き水稲の育苗を行っており、ハウスの有効活用ができていると言います。また、近ごろは、資材や燃料費の高騰によって、経費負担も大きくなっています。石橋さんは、暖房設備のあるハウスの1棟に廃油ストーブを設置。少しでも灯油を節約する工夫をするなど、コスト削減にも余念がありません。

ものづくりを通して達成感ややりがいが感じられる農業

就農3年目、技術面では、病気やウイルスの発生が課題です。病気の広がりを少しでも抑えようと、1列ごとに収穫用のはさみを分けて使うなどしていますが、対処に苦慮しています。関係機関に相談したところ、苗作りを行う際に、株が古くなっていると病気になりやすいため、新しいものに更新していく必要があると教えてもらえました。「県の担当者は、定期的に巡回して生育状況をチェックしてくれるので助かっています。」また、県のアドバイザーを務めている近隣の先輩ダリア農家にも、困ったことやわからないことをすぐに相談でき、心強い存在だと話します。

「農業は体力勝負」。石橋さんは、もともと体力には自信があったそうですが、やはりハードだと感じることもあるそうです。それでも、農業には大きな魅力があると実感しています。「自然が相手なので大変ですが、そんななか、自分が手をかけて育てたダリアがきれいな花を咲かせると、よかったなぁという気持ちになります。ものづくりを通して達成感が得られることに、やりがいを感じます。」以前は、毎日忙しく働き、精神的に余裕のない生活でした。今も時間的にはハードな日々ですが、心にゆとりをもって自分のペースで仕事ができていると言います。将来的には前職の経験を生かし、障害者と農家をつなぐ「農福連携」の活動も視野に入れていきたいと話す石橋さんは、目標に向かって、一歩ずつ進み始めています。