先輩農家の体験記
Interview
阿部 暉
■所在地:秋田県雄勝郡羽後町
■栽培品目/栽培面積:トマト/ 30a、水稲/5ha、せり/12a、ほうれん草/20a
■就農時の年齢:25歳
■利用した補助事業:メガ団地等大規模園芸拠点育成事業、農業次世代人材投資資金
トマト農家を目指してUターン。トマトの夏秋どり栽培と冬期間のせり栽培を組み合わせて通年雇用を実現

羽後町でトマトを中心に生産する阿部 暉(あべ ひかる)さん。園芸メガ団地※に参画して独立就農しました。就農7年目の現在は10棟のハウスでトマトやせり、ほうれん草を栽培しています。また、水稲も5ha栽培しています。
※園芸メガ団地は、野菜や花きなどの園芸作物を集中的に生産する大規模な生産拠点。先進技術や設備を活用し、高収益作物を栽培することで、地域農業の振興や雇用創出を目指す。
メガ団地事業を新規参入のチャンスととらえ就農を決意

阿部さんは就農以前は埼玉県で自衛官をしていました。実家は羽後町でトマトを栽培する農家です。Uターンを考えていたとき、両親から「メガ団地があるよ」と聞き、就農を決意しました。
当時のメガ団地等大規模園芸拠点育成事業(~令和3年度)では、機械・施設整備費の3/4を国・秋田県と市町村が助成し、1/4をJAが事業実施主体として負担。JAが農業者や農業法人に施設・機械などをリースする仕組みで、初期投資が大幅に削減できるのが魅力でした。
「トマト栽培がやりたかったので、最初にかかる初期費用の面で、メガ団地事業では色々な補助が使えるということでチャンスだと思いました。」
阿部さんの圃場(ほじょう)では事業を利用してパイプハウス10棟のほか、格納庫、かん水設備などを導入しています。農地のあっせんも受けることができました。
未来農業のフロンティア育成研修で大規模栽培のノウハウを習得

阿部さんは就農にあたって2年間、秋田県の主催する未来農業のフロンティア育成研修(現・秋田アグリフロンティア育成研修)を受講しました。未来農業のフロンティア育成研修は新規就農者等を対象に、秋田県の農業試験場等で農業経営に必要な基礎的知識・技術を習得するための制度です。
「メガ団地で就農するにあたって、きちんとした栽培技術を学んだ方がいいと父からアドバイスされ、参加を決めました。」
1年目は県の試験場でトマトの栽培管理の基本を、2年目は先輩農家のもとで実地研修を受けて広い面積の栽培をこなすノウハウを学びました。
座学も充実しており、農業経営や融資など、就農にあたって必要なことも全般的に学べます。専門的な知識をもつ研究員の指導も受けられたため、阿部さんは就農後にトマトの病気が出てしまったとき、研究員の方に相談できて助かったそうです。
実家でトマト栽培を手伝った経験もある阿部さんですが、未来農業のフロンティア育成研修に参加してよかったと言います。
「栽培だけでなく、経営についてもどういうことが必要か、先輩農家さんの話も聞ける点はすごく大きいです。試験場でお手本のような栽培技術を学んだうえで、ほかの農家さんを見に行ったり、いろいろな農家さんのもとで研修したりすることで、基本的なことと自分の家のことがわかるようになりました。全部の良いところをふまえて、自分はどうしようかと考えることができました。」
一緒に学んだ研修生仲間との情報交換も、就農後の励みになっています。
「お互い頑張っているんだなと思うと、自分も頑張りたいなという気持ちになります。」
研修では経営計画や資金情報のサポートも
未来農業のフロンティア育成研修で栽培技術だけではなく、事業計画や融資についても学べたことが、阿部さんの就農後の安心につながりました。
「メガ団地で就農することを前提に研修を受けていたので、就農中に年間このぐらいのリース代が発生するということもJAから明確に数字で出していただき、その数字をふまえて研修中に新規就農後5年間の計画を立てることができました。リース代やそのほかにかかる経費も含めて、では自分はどれぐらいの出荷量が必要なのかを具体的に考えることができて、それが今の経営につながっています。」
冬期作物に高収益のせりを採用。通年雇用が可能に

2018年、2年間の研修を終えた阿部さんは農業次世代人材投資資金※を利用して、両親とは別の経営体として独立就農しました。メガ団地の整備を進め、2020年からすべてのハウスで本格的に栽培をスタートしました。
メガ団地で就農したメリットとして親元就農や雇用就農ではなく自分の経営ができること、何よりも大きい設備で就農できたことをあげる阿部さんですが、大規模栽培では雇用が必須です。
阿部さんはハウスを活用して周年で農業をし、雇用の確保と経営の安定化をしたいと考えていました。トマト栽培が終わった後、冬期の作目として阿部さんが選んだのは県南地域で栽培が盛んなせりでした。単価が高いことや、水質が重要でライバルとなる新規参入者が増えにくいところにも魅力を感じたそうです。
栽培方法は、冬にせりを栽培しているトマト農家の先輩や、その先輩の知り合いから学びました。年々安定して栽培できるようになっているのがやりがいになっています。
※農業次世代人材投資資金は、次世代を担う農業者となることを志向する者に対し、就農前の研修段階及び就農直後の経営確立を支援する資金。令和4年度から就農準備資金・経営開始資金に名称変更。

現在は通年で1日あたり8名のパート従業員が阿部さんのもとで働いています。
阿部さんは、「自分一人ではとてもではないがこのメガ団地の面積をこなすことはできないので、年中自分の所に働きに協力してくれる方、毎年来てくれる方がいて、ありがたいなと思います」と感謝し、「この設備を使って年中雇用できれば自分も助かるし、お給料を払って『ありがとう』と言われるのもうれしいですし、そういう関係ができてすごくうれしいなと思います」と語ります。
そして、空白期間なく雇用したいという思いから、今後も面積の拡大や、年間を通して雇用できるような作目を検討していきたいと考えています。
売上を伸ばし地域の農業振興に貢献したい

農業の魅力を「経験を積むにつれて目に見えるかたちで実績があがるところ。必ずしも順調にいくわけではないが、それを周りと相談して改善するのも自分で考えられる」と語る阿部さん。
「先輩たちが作ってくれた産地を小さくしてしまうのではなくて、自分たちで少しでも維持できるように」と、農地を拡大し、売上を伸ばすことに意欲を燃やしています。
阿部さんはトマト栽培を始めて4年目の2023年に、JAこまちトマト部会生産者大会で最優秀賞を受賞しました。これからも地域の若手生産者をけん引する存在として活躍していくことでしょう。
その他の体験記

地域:秋田県雄勝郡羽後町
品目:トマト、水稲、せり、ほうれん草
品目/敷地面積:トマト/ 30a、水稲/5ha、せり/12a、ほうれん草/20a
敷地面積:トマト/ 30a、水稲/5ha、せり/12a、ほうれん草/20a

地域:秋田県 山本郡 藤里町
品目:羊肉、羊毛
品目/敷地面積:羊(テクセル種、サフォーク種、カラード、交雑種)飼育頭数約150頭/放牧地5ha
敷地面積:羊(テクセル種、サフォーク種、カラード、交雑種)約150頭