先輩農家の体験記
Interview
宮の羊の牧場
宮野洋平・宮野友美
■所在地:秋田県
山本郡
藤里町
■栽培品目/栽培面積:羊(テクセル種、サフォーク種、カラード、交雑種)飼育頭数約150頭/放牧地5ha
■販路:直販(飲食店、直売所、ネット販売)
■家族構成:妻、子ども3人
■就農時の年齢:洋平さん40歳、友美さん35歳
■利用した補助事業:新時代を勝ち抜く!農業夢プラン応援事業
■URL:https://www.miyano-hitujino-bokujo.com/
地域おこし協力隊の制度を活用して移住・就農。羊の町で羊飼いの道を進む
2021年から藤里町に移住し、妻の友美さんと羊牧場を開業した宮野洋平さん。就農3年目を迎え、現在およそ150頭の羊を飼育しています。
牧羊犬に惹かれ、羊飼いの道へ
洋平さんが「羊飼い」を志したのは、なんと「牧羊犬に惹かれたから」。牧羊犬のショーで、合図ひとつでたくさんの羊をコントロールする牧羊犬の姿や、牧羊犬とトレーナーの意思疎通に心を奪われたのがきっかけだそうです。
専門学校で羊について学んだ後、静岡県の牧場勤務を経て、群馬県の観光牧場で羊と牧羊犬の担当として働いていた洋平さんですが、観光業と畜産としての羊の飼育とは違うもの。職場で出会って結婚した友美さんとともに、自分たちが思い描く農業を行うため、独立開業の準備を始めました。
事業を自ら提案する地域おこし協力隊制度を活用、妻は新規就農者としてスタート
3人のお子さんがいる宮野さん夫妻。「できれば上の子が小学校に上がるタイミングまでに独立したい」と、洋平さんが40歳を目標に、約5年かけて農場を開く土地を探しました。
東北を選んだのは、洋平さんの両親が青森に住んでいたから。東北にはほかにも羊が飼育されている地域がありますが、その中から藤里町を選んだのには2つの理由があります。
ひとつは、もともと藤里町で羊の飼育が行われていたこと。町では畜産振興の一環として、1987年からサフォーク種の飼育が行われ、羊肉を生産しています。
「羊を飼っていない地域よりは、飼っている地域に来た方が入りやすいかな、と。」
町営の放牧場には、地元の子どもたちが社会科見学で訪れることもあるそうです。そうしたことから、町全体が羊に理解があったことが大きいと、洋平さんは振り返ります。
もうひとつは、地域おこし協力隊(事業提案型)という制度です。
地域おこし協力隊は、都市部から過疎地域などに移住し、地域活動を通じてその土地での定住を目指す取り組みです。自治体が主体となり、選考を経て希望者を隊員として委嘱します。隊員は自治体から給料を受け取りながら地域活動に取り組みます。
地域おこし協力隊には、自治体や関係機関に雇用される形や民間企業で働く形もありますが、洋平さんが活用したのは、応募者自らが事業を提案する制度でした。
洋平さんは羊の生産牧場を開設・運営する事業を提案し、採用されました。
「移住して新規就農するとなると、かなりハード。その点、藤里町では町でも羊を飼育しているので、あまり異論を言う人がいなかった。すごくスムーズに話が進んだ」のが、藤里町を選んだ決め手になりました。
宮野さん夫妻は、洋平さんが地域おこし協力隊、友美さんが認定新規就農者として農業をスタートさせました。その理由を、「完全に経済的なところが大きい」ときっぱりと言い切った洋平さん。
親になる羊を購入して子どもを産ませ、その子羊が食肉として出荷できるまでには約2年かかります。
「ふたりとも新規就農者として始めることも考えたが、地域おこし協力隊と新規就農者、ふたりの収入を合わると年間400万円ほどになる。農場を開いて羊を育て、出荷するまでの準備期間に、このお金があるのは大きい」と語ります。
また、友美さんが認定新規就農者となったことで、新規就農者向けの支援制度も利用することができました。
地域おこし協力隊のおかげで、地域に早くなじめた
藤里町を拠点として選んだ宮野さん一家。藤里町に転居した最初の年にはもう、繁殖をするための親羊を迎えたという行動力には驚きます。住む予定の家が、引っ越しの1週間前に不具合で住めないことがわかり、急遽別の住まいを探すというハプニングなどもあり、最初の1年はあっという間に過ぎました。
地域おこし協力隊では当初、自身の開業準備のかたわら、町の牧場で羊と牛の管理、放牧場の整備を担当しながら、週に1回、町の産地直売所である「白神街道ふじさと」も手伝っていましたが、親羊を迎え「宮の羊の牧場」を開業してからは、自身の事業に優先して取り組むようになります。
短い期間ではありますが、放牧場や直売所で働いたことで、地元の農家とつながりが持てたという洋平さん。新規就農者として活動を始めた友美さんも、周囲から「宮野さんの奥さん」と声をかけられることが増え、「家族が地域おこし協力隊で良かったなと思います」と地域での関係作りがスムーズに進んだと明かします。
取り組む人が少ない品目だからこそ、行政の支援が心強い
あらかじめ事業計画を作り込んでいたため、着々と経営を進めているように見える宮野さん夫妻ですが、担い手の少ない品目ならではの問題も出てきます。そのひとつは、補助事業の対象にならなかったり、対象になるかどうかわからなかったりすることがあるというもの。
「他の自治体で羊が補助対象になることはあまりないのですが、秋田県は羊の導入に関しても補助金を出してくれるので、すごく助かっています。」
今回、宮野さん夫妻は秋田県の補助事業「新時代を勝ち抜く!農業夢プラン応援事業」を活用しました。これは、規模の拡大などによって経営向上を目指す農業者に対し、機械導入などの費用を補助するものですが、当初、実施要綱には羊が対象になるかどうかは明記されていなかったとのこと。県や町の担当者が速やかに確認・調整をし、就農への道を開いてくれたことがありがたいと語ります。
土地を探す際も町の担当者が尽力してくださり、5haの広さの放牧場を借りることができました。
羊の町だからこそ、羊の文化を伝えたい
秋田に暮らしてみての感想でふたりから出てきたのは「食べ物がおいしい」という言葉。新鮮で、四季を感じられる食べ物が食べられるとのこと。
「とくに山菜。皆さんが本当においしいものを取ってきてくれて」と目を輝かせる友美さん。洋平さんが地域おこし協力隊で顔を知られていたこともあり「みんなが協力的」と周囲のあたたかさにも助けられています。
一方、町ぐるみで羊を育ててきた歴史のある藤里町ですが、地元では羊について意外と知られていないことにも気付きました。羊の文化を発信し、若い人たちに藤里の羊のことを知ってほしいと考えています。
「羊は、食べるだけではなく、他にもいろいろな見せ方があると思います。私たちにできるところはお手伝いできれば。」
現在の「宮の羊の牧場」は、秋田県内や首都圏の飲食店への卸と産直所での販売に加え、自分たちのネットショップも持っています。そのほか、町のお祭りなどに積極的に出店し、羊肉の味を広めています。
また、洋平さんは羊の毛刈り技術を競う大会で4年連続優勝した「毛刈り日本一」の腕の持ち主。ネットショップでは牧場の羊から刈った羊毛も販売しています。「羊毛についてはまだそれほど詳しくない」という友美さんですが、羊毛の活用も広めていけたらと話してくれました。
地域おこし協力隊と新規就農者の二人三脚でスタートした宮の羊の牧場。洋平さんは2023年3月に地域おこし協力隊の活動を終え、本格的に農業者となりました。
親羊の導入が一段落し、目下の課題は安定した生産体制を築くこと。現在の放牧場は長年放置されていた耕作放棄地を開墾したばかり。ちょっとした傷からも病気になりやすい羊たちが、ケガせずに安心してのびのびと過ごせる放牧地に変えていきたいということです。
これまで農業を続けてこられた理由を洋平さんに尋ねると、「妻が同じ気持ちでやってきてくれたから」という答えが返ってきました。これからもふたりで羊の町を盛り立てていくに違いありません。
その他の体験記
地域:秋田県 山本郡 藤里町
品目:羊肉、羊毛
品目/敷地面積:羊(テクセル種、サフォーク種、カラード、交雑種)飼育頭数約150頭/放牧地5ha
敷地面積:羊(テクセル種、サフォーク種、カラード、交雑種)約150頭