農事組合法人あきた皆別当
秋田県大仙市にある農事組合法人あきた皆別当は、水稲を基盤にカボチャの栽培や農作業の受託を行っている農業法人です。2023年、草薙克さんは第三者継承で法人を引き継ぎ、27歳で代表理事となりました。
■所在地:秋田県大仙市
■栽培品目:水稲43ha、かぼちゃ2ha
■業種:水稲、カボチャ、いぶりがっこ等の作業受託
■栽培面積:耕地面積45ha(水稲:43ha、カボチャ:2ha)
農事組合法人あきた皆別当
“継ぐ農業”という選択肢。第三者継承で広がるキャリアと可能性

秋田県大仙市にある農事組合法人あきた皆別当(かいべっとう)は、水稲を基盤にカボチャの栽培や農作業の受託を行っている農業法人です。役員3名、正社員2名とパート職員のべ9名で構成されています。
2025年で設立15期目を迎える当法人は、もともと営農組合のライスセンター(※1)だった場所。基盤整備事業(※2)に合わせて組織を法人化したという歴史があります。
その歴史に新たな名を刻んだのは2023年、27歳で代表理事となった草薙克(すぐる)さん。第三者継承(※3)で当法人を引き継いだ若き農業者です。
※1:収穫した稲のもみを乾燥から出荷までを一貫して行う共同の営農施設
※2:生産性向上と地域の農業の担い手を育成するために、ほ場の大区画化や排水条件の整備などを行う事業
※3:親族や従業員などの身内以外の者に、農地や機械、技術、経営ノウハウといった農業経営の全てを譲り渡すこと。
理事に就任するまで約4ヶ月。第三者継承の決め手は秋田県のサポートと地権者との話し合い理念

あきた皆別当の代表理事を務める草薙さんは、これまでに農業法人を2社経験しています。農業高校を卒業後、それらの法人では農業の基本から応用、そして機械整備などの農業にまつわる細かい部分までを習得。独立就農を目標に掲げ、自分一人で全て行えるようスキルアップを図っていました。
本格的に独立を検討する中で、草薙さんは当初「第三者継承という方法は知ってはいたものの難しい」と感じていたそうです。
しかし、秋田県からのサポートと地権者との密度の濃い話し合いが実現したことが後押しとなり、第三者継承を選択。何より会社を早く軌道に乗せたいという草薙さん自身の想いが一番の決め手になり、わずか4ヶ月、「11月に秋田県から話を受けて、3月に就任」というスピードで理事に就任しました。5年間の継承計画は、草薙さん、法人、秋田県の三者で立てました。秋田県の重点支援対象者に選定され、中小企業診断士や社会保険労務士等の専門家のサポートで、ビジョンや就業規則の作成、みどり認定の登録もできました。
新規就農と違い、農業法人の第三者継承は、受け入れ側の意思が最も重要です。
「第三者継承するにあたり、先に法人側が受け入れます、ということを言ってくれないと厳しいと思います。」
第三者による事業継承はいくら継ぐ側がやりたいと言っても、受け入れる法人側が手を挙げない限り、実現に至らないケースが多くあります。反対に、受け入れたいと思っている法人がいても、継いでくれる農業者がいなければ存続の危機に晒される側面も考えられます。
草薙さんに意識した点をお聞きすると、就任前から当時の役員・関係者との積極的な交流を重ね、深い関係を築いてきたとのこと。その地道な努力が4ヶ月でのスピード就任につながったといえるでしょう。
オール農協経営から脱却し、成長がある会社へ。あきた皆別当が行った改革とは

「もともと農協に全部委ねている形の経営でした」と語る草薙さん。
理事就任後に直面したのは、当時のあきた皆別当の経営環境でした。販売先は全て農協だったため、買取価格は決められた金額。経理も農協に任せている状態でした。
また、役員全員が高齢で、いつでもやめられるようにと積極的な投資も行っていませんでした。
草薙さんはこの状況からいち早く脱却し、「頑張りを社員に還元できる会社」を目指し、改革を始めました。経営の自立という第一段階を完了させるのに、丸々2年かかったといいます。現在の販売先は秋田県内外の商社がほとんどで農協への出荷はありません。価格交渉権を持てるようになりました。
さらに並行して、第二段階として設備と技術の自立にも着手。就任当時は道具や機械類が会社にほとんどなかったため、自社で所有するための整備に1年半から2年程度を費やしました。そうすることで、経営基盤となる設備資産を自社でコントロールできるようになったのです。
これら2つの改革は、草薙さんにとって経営を新しいステージに進めるための重要なポイントでした。
「家族経営の規模感を、会社の規模に変えていくことが大事でした。」
草薙さんの継承は、単なる後継者問題の解決に留まらず、歴史ある法人を現代の市場で戦える本当の会社へと作り替える、壮大な構造改革だったのです。
最新技術を投じて長期経営を見据えるこれからのあきた皆別当

あきた皆別当は、水稲の耕地面積を43haから60haへと拡大する計画を進めています。水稲栽培のピークは春と秋ですが、秋の稲刈りは60ha規模になっても今の体制で対応できます。
「育苗や田植えなどの春作業に新たな技術を入れることによって効率化し、耕地面積を増やしていくことが可能かなと考えています」と話してくれました。
具体的には、効率を劇的に高める、田植えをせず田んぼに直接種もみをまく栽培方法を検討しています。
草薙さんは水稲は初期投資がかかるものということを前提に、最新技術を取り入れ、初期投資を長い目で見て回収すること。そして耕地面積を増やしたことでの収穫量の増加を見込んでいます。
「会社」として年中途切れない働き方を実現するために

「固定収入がある程度なければ、生活がままならない。結局生活が回らないと仕事も全然うまくいかない思ってるんですよね。」
独立就農における初期投資は近代化資金などの優遇制度があるため確保できても、生活の基盤となる継続的に収入を得られるようになるまでには時間がかかります。雇用就農の最大のメリットは、収入面における不安を払拭できること。草薙さんは安定した収入を得ることが仕事の成功につながると考えています。
この考えに基づき、あきた皆別当ではサツマイモやいぶりがっこ用だいこんの栽培管理作業などを請け負い、通年仕事が途切れない体制づくりを進めています。今後は農作業受託で収入源を増やしていくとともに、環境保全の取組も積極的に進めていく方針です。
組織づくりを支える現場の声

草薙さんの取り組みが“会社としての農業”を形成しつつあることは、現場で働く従業員の姿からも見えてきます。その一例が、元調理師という異業種から転職した田村俊介さんです。現在は農業を学びつつ日々の業務に従事しています。
田村さんに農業未経験からどのように仕事を習得しているか尋ねると、組織化された研修体制が安心感につながっていると話してくれました。
「与えられた役割に集中できるため、迷いなく取り組めています。作業が明確なので、あとはそれをやるだけです。」
この言葉は、草薙さんが進めてきた“仕組み化”の成果を象徴しています。作業受託による通年雇用、初心者でも段階的に技術が身につく研修プログラム。こうした整備があるからこそ、異業種の人材でも安心して働くことが可能です。
雇用就農のメリットである、固定収入を得ながら投資ゼロで技術を習得できるという仕組みを、法人として最大限に活かしている好例といえるでしょう。
第三者継承で得た決定権と農業の大きな魅力

草薙さんはこれまでを振り返り、第三者継承は難易度が高いと認めつつも、最も良かった点として代表として任せてもらい、決定権を持つことができたという点を挙げます。
「決定権を持つということが一番の自信につながりました」と、自ら決定を下し、組織を動かす経験が大きな成長につながったことを強調しました。
草薙さんのビジョンは、自身の経験を活かした次世代の担い手育成にあります。あきた皆別当の理事は30歳の草薙さんのほかは50代後半。そのため農業経験は問わず、「近いうちに20〜30代の方を一人雇用し、正社員から役員就任を目指す形で育て上げたい」と、次世代リーダー育成への意欲を語ります。
最近、あきた皆別当では近くの住宅を購入しました。県外からも入社してもらえたらと社宅として使用できるよう整備を進めています。家賃は無料、水道光熱費だけを負担してもらう予定です。
手厚い雇用環境を整備する理由には、従業員に安定して長く働けるようにという強い想いがあるからです。
最後に、これから農業を志す人へ、農業の魅力を力強く語ってくれました。
「農業が好きだという気持ちさえあれば、もちろん大変なことはたくさんありますが、つらい作業も2〜3日で終わります。その先には、楽しさを感じられる仕事がいくらでも待っています。とくに秋の稲刈りの時期に味わう達成感は、言葉では言い表せないほど大きなものだと思います。」
農事組合法人あきた皆別当は、第三者継承によって硬直した地域農業に風穴を開け、次世代が安心して参入できる会社へと組織を生まれ変わらせるためのモデルケースとなっています。
“初期投資の心配なく、農業技術と経営を学び、将来は自身が法人を継承する。”
秋田の地で始まったこの挑戦は、閉塞感に悩む日本の農業界に、持続可能な希望の光を灯しています。