先輩農家の体験記

Interview


農事組合法人 新東北AGRAS 代表理事

林 龍太郎

■所在地:秋田県横手市
■栽培品目/栽培面積:すいか/1ha、主食用米/3ha、ホールクロップサイレージ/約30ha、大豆など
■売上金額年間約2,000万円
■販路:JA80%、直売(県内スーパー、小売店、インターネット販売)20%
■従業員:3名
■就農時の年齢:27歳


よこて農業創生大学校で農業の基礎を学ぶ

就農以前は、首都圏の飲食店や携帯電話会社などで勤務していた林龍太郎さん。いずれは出身地の横手市に戻り、起業したいと考えていました。帰郷後、農家でのアルバイトがきっかけで、農業に興味をもつようになったと言います。
近隣の農家に相談すると、「よこて農業創生大学校」での研修について教えてもらうことができました。2年間、国の農業次世代人材投資資金(現就農準備資金)を受給しながら農業技術が学べる研修で、横手市の農業振興課やJA秋田ふるさとにも相談して、研修への参加を決めました。

研修1年目は、育苗や栽培管理など農業技術の基礎実習のほか、資材や土壌、肥料、防除、経営などについての座学。2年目は、専攻作物を選んで実習や実技、座学などの応用編で、より詳しく農業技術が学べるカリキュラムが用意されています。

非農家出身で、農地や農業機械を持っていなかった林さんは、専攻作物を決める際、「いかに効率的に収益を上げられるか」を考えて、すいかを選択しました。すいかならビニールハウスがなくても作ることができ、資材にもあまりコストがかからないと判断。また、横手市は県内随一のすいかの産地だったことも決め手になりました。研修2年目の1年間は、地域の篤農家の指導を受けながら、栽培について学びを深めました。

県と市の補助事業や公庫からの融資を活用し、ゼロからの新規就農

研修終了後、すいかの栽培に適した農地を探し始めた林さんは、JAや市に相談。最終的には地域の農業法人から条件のいい場所を借りることができ、2018年から約0.5haですいかの栽培をスタートさせました。
「就農1〜2年目は収量が上がらずとても苦労した」と話す林さん。生活費はある程度貯金でまかなえましたが、農業機械購入などの資金面で不安を感じていました。

幸い、県と市の補助事業「新時代を勝ち抜く!農業夢プラン応援事業」を活用しながら、日本政策金融公庫からの融資が受けられ、トラクターや消毒用の防除機、すいかの玉磨き機など必要なものを購入。トータル800万円かかる機械投資の約半額を補助金でまかない、なんとか乗り切ることができたと言います。資金面のみならず、就農直後は事務処理の仕事も大変でした。日ごろからJAの担い手支援室や市の農業振興課に頻繁に通い、アドバイスをもらっています。

横手市出身の林さんですが、非農家の新規就農者ということで、近隣の農家にとっては「知らない人」。なんとか周囲に溶け込みたいと思い、草刈りや溝そうじなど地域の行事に積極的に参加。そのうちに、農作業をしていると少しずつ声をかけてもらえるようになり、今では「地域の人たちから支えられている」と感じられるまでに親交が深まりました。

耕種農家と畜産農家が手を結び、新しい耕畜連携をめざす

新規就農から3年後の2020年、林さんは地元の同級生と3人で農事組合法人を立ち上げました。就農当初は0.5haだったすいかの畑は1haに拡大。さらに主食用米3ha、牛の飼料となるホールクロップサイレージは30haもの広大な農地を使用して栽培しています。

法人化のきっかけは「土地利用型農業」に興味をもったこと。地元の横手市に愛着を感じている林さんは、より広い面積で大きな農業をして土地を守りたいと考え、水稲やホールクロップサイレージの栽培を始めました。

林さんは、「新しい耕畜連携」をめざしています。肥料の価格が上がり続けている今、これまでよりもさらに堆肥が注目されるのではないかと予測。地域の田んぼで飼料を作り、それを食べた牛の糞尿を堆肥化し、肥料として循環させることに思いを巡らせていると言います。畜産農家と耕種農家をつなぎ、お互いにメリットが生まれるように連携していきたい考えです。

農家の困りごとを解決する「作業受託」で売上の半分を占める

農事組合法人としての取り組みで、興味深いのは稲の刈り取りなどの作業受託です。高齢になり広大な田んぼの管理が難しい農家や、機械があっても人手が足りず活用できていない農家が多いと話す林さん。困りごとを抱える農家の作業を一手に引き受け、今では自分たちが栽培している農地以外に30haの面積を管理。年間売上約2,000万円のうちのおよそ半分はこの作業受託によるものです。

収益が大きいだけでなく、ありがたいのは、ベテラン農家から学べることがたくさんあるということ。作業を請け負うことで、地域の農家との交流が生まれ、長年農業に携わってきた経験や豊富な知識をもつ農家から、さまざまなことを教えてもらっていると言います。仕事を引き受ける業者というだけでなく、「地域の農業を引っ張っていきたい」という純粋な熱意が伝わっているからこそ、関係性が築けているのではないかと考えています。

「地域とのつながりはとても大切で、田んぼ1枚をきれいに管理していると、「あの会社にまかせたい」、「自分たちも高齢になったら依頼しよう」という話がどんどん広がっていきます。農地をしっかり管理して、地域を守る一端を担っている自負があるので、周りからも支えてもらえていると思っています。」

スイカ

横手の農業を次世代へつなぐために手を尽くしたい

「横手市の農業を次世代に残していきたい」という思いをもつ林さんは、今後も規模拡大を見据えています。所有している農機が少ない林さんの農事組合法人では、リースでまかなっているものも多く、これ以上面積が増えると、さらに大がかりな機械投資も考えていく必要がありそうです。現在は、なるべく負担を軽減する方法として、田んぼへの「直播」を模索しています。

「5月中旬〜6月に育苗した苗を定植する、いわゆる田植えが続きますが、その時期はすいかの作業が重なります。負担を減らすために春先の育苗をやめて、田んぼに種籾を直播することにもチャレンジしています。」
直播した稲は雑草に弱く、収量が上がらないとされてきましたが、近年は農機や薬剤の精度が上がっており、直播で収量が採れるようになれば、ある意味「革命」だ、と期待を膨らませています。

地域の農業の発展に力を注ぐ林さんは、これまで近隣の農家やJA、行政機関に親身になってサポートしてもらった経験から、今後もっと経験を積んで新規就農者をバックアップしていきたいと考えています。
「周囲に助けてもらえたからこそ、仕事がうまくいき、効率がよくなったと思っています。自分がまわりからしてもらったことを、今度は誰かに返していきたいです。」

畜産農家に積極的にアプローチして仕事を確保したり、高齢化や人手不足によって管理が難しくなった農地の作業を受託したりするなど、周囲の農家とは違ったかたちで頭角を表してきた林さん。ゼロからのスタートで事業を起こした新規就農者だからこそ、試行錯誤を繰り返し、たどりついたスタイルなのかもしれません。